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酔いどれ介護者の減塩食日記

減塩食レシピ作りで料理の修行中。介護の日常と非日常・・・タフでなければ介護はできない、優しくなければ介護をする資格がない。

心優しき介護者は、ショートステイのときに浦島太郎になる

失語症による意味不明の言葉や、ゴホゴホゲーの咳痰の音を耳にしなくて済む。介護おむつの交換をしながら「バカヤロー」と怒鳴られることもない。平穏な生活を送れるのであれば、それだけでいい。しみじみとそう思う数日間は、でもあっという間に終る。父が月に一度のショートステイから帰ってきた。

ショートステイ(短期入所)とは、在宅で介護をしている人が冠婚葬祭・旅行・病気などで介護ができなくなってしまった場合にも必要だけど、何よりも介護者の介護疲れをいやして心身の休養をとってもらい、介護殺人とか介護うつ自殺とかの痛ましい事件を減らすために、被介護者に短期的に施設に入所してもらうサービスで、共謀罪とか入国禁止令とかよかずっと大切な制度である。

出典:広辞苑 第7版

相変わらず、開口一番「やっぱりわが家がいちばんだ」みたいなことを言う。その後に言葉は続かないから、正直こちらはむっとする。父を車椅子で待たせながら、おもむろにベッドの支度を始める。レンタルの介護ベッドの防水シーツの上に洗いたてのシーツを敷き、その上にまた細い防水シーツを重ね、天日干しした掛け布団を足元に整える。

快適なベッド環境は自然発生的にそこに存在するわけではない。毎日、高いびきで寝られるのは誰のおかげなのか。それを知らしめるために恩着せがましく、帰宅前にではなく帰宅後に父の目の前でベッドメーキングをする。介護者として嫌味なやり方だろう。でも、ショートステイで世話になった施設からは今回も、「入所中に帰宅願望があった」との報告があった。辞書をよく読むような人だったが、ショートステイの意味は理解してくれない。

気が休まるのはショートステイのときだけだ。と言って、羽目をはずしてはいけない。調子に乗って羽根を伸ばすと、あらぬ方に飛んでいったりする。だから、今回は羽根をたたんで、1日だけ目の保養のために外出して、あとは自宅でまったりとすごした。

ショートステイ中の恒例の出前。いつもは中華の定食屋だが、今回はインドカレーの専門店にした。カレーもたまに出す。でも、父には介護食の減塩レトルト、こっちはハウスの「カリー屋カレー」やエスビーの「カレー曜日」のレトルト。どっちも安くて美味しいのだが、たまには本格的なものが食べたい。辛いものが苦手な母にこちらの要望を聞き入れてもらう。

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減塩食日記と謳っているので、塩分のことにも触れておくと、カリー屋カレー(中辛)は塩分3グラム、カレー曜日(中辛)は2.4グラム。カレー自体、それほど塩分が高い料理ではない。特にカレー粉は塩分がほとんどないので、料理の味つけやチャーハンなどでたまに使っている。カレーはまた、認知症予防などさまざまな健康効果が期待できるという。

ビールを飲みながら、チキンマサラカレーやバターチキンカレーをナンで食べる。気分よく満腹になって眠たくなったが、このまま寝てはもったいない。焼酎に切りかえて、久しぶりにテレビのチャンネルをバラエティ番組に合わせる。日テレの「深イイ話2時間SP」。乃木坂46白石麻衣やラッパーのちゃんみな吉本新喜劇のすち子さんなどを取り上げていた。どの人も知らなかった。

若い頃は映画をよく見ていた。学生時代は毎年数百本。だから、自分は年をとっても芸能界に疎くなるようなことはないだろうと思っていた。それが、ものの見事に疎くなった。縁が遠いものになった。介護を始めてから丸4年間、映画は数えるほどしか見ていない。いま売れている若手俳優はほとんど知らない。

毎朝、新聞のテレビ欄を見て、気になるタイトルがあれば予約録画する。でも、時間はあっても見たいという気が起こらない。ハードディスクは満杯になる。だから、まあこれは見なくてもいいかと消しては、新しいのを入れる。でも、見ない。そんな不毛なことを繰り返している。自分は映画が好きだったのかも疑わしくなっていた。

テレビ的な芸能文化は若者向けにできている。介護のせいばかりではなく、単に自分が年をとったということなのだろう。実は、インドカレーを食べる前に久しぶりに映画を一本見た。日本のやくざを描いた、その名も「ザ・ヤクザ」という古いアメリカ映画。主演はロバート・ミッチャム高倉健岸恵子(美しい!)。ハードディスクに溜まった数多い映画の中からなぜこのチョイスなのか。その点は話が長くなるので端折るが、実際に見れば、こんな映画でも十分に堪能できた。

昔見たことがある映画だった。でも、内容をまったく覚えていなかった。出来ばえの可否はともかく、この印象的な映画をなぜ記憶から消し去ったのか。話が進むにつれ、その理由が分かってきた。年をとればとったで、複眼的な見方で映画に接することができるようになる。こういう点もひっくるめて面白いと思った。

ショートステイからの帰宅早々、父が尿意を催した。いや思い出した。やれやれ。小なんかすべて介護パンツの中にやってくれればいいのに。狭い廊下で転ばせないようにトイレの便座まで運ぶ。そんな介護はこれからも続くだろう。でも、これからは大好きだった昔の映画も少しずつ見直していこうと思っている。

追記:「ザ・ヤクザ」は見ないことを強くおすすめします。