酔いどれ介護者の減塩食日記

料理、家庭菜園(近日開始)、クロスバイク、介護・・・与太話を交えて。

豚肉のヨーグルトみそ漬け焼き(前編)

現在、歯医者に通っている。長い中断期間があったにせよ、かれこれ1年近くになる。去年の冬、突然、強烈な歯の痛みに襲われた。伯母(父の姉)の葬式に出ているときで、確か、寿司を口に入れた瞬間だった。

なぜ、こんなときに、こんな場で、こんなものを食べて。何の兆候もなかった。でも、ああそうかと思うところはあった。天罰だろうと甘んじた。因縁めいた長い話になる。それは、いずれまた。

その歯医者の待合室でのことだ。隣に座っていた爺さんに声をかけられた。口から入れ歯を取り出し、こいつの調子が悪くてと、愚痴をこぼし始めた。入れ歯の苦労は知っている。親父のそれで経験済みだ。

ただ、およそ人さまの入れ歯などというものは、しげしげと見たいものではない。正直、気持ち悪い。待合室には俺を含めて3人いた。爺さんの奥にも爺さんがいた。その爺さんもまた、手元で入れ歯をいじっていた。参った。

親父も生前、人前だろうが、食事中だろうが、よく入れ歯を口から出した。入れ歯に詰まった食べかすを指先で取っては口に入れるなんてのも慣例だった。入れ歯が合わないことのつらさは想像がつく。でも、それを人前で平気で出せる神経とは何なのか。

年をとって無頓着になったせいか、もとよりデリカシーのない性格なのか。親父は後者が9割で前者1割だったか。だから、どうしようもなかった。そういうことはみっともない。汚らしい。しないほうがいい。そんな苦言は一切通用しない。要は、非常識。厳しい言い方だろうか。それでも、介護はしなければならない。

(そのくせ、在宅介護を始めた頃は、入れ歯を外して寝るのを嫌がった。失語症のせいもあったけど、訳がわからなかった。カツラノヒトハ、カツラシタママ、ネルカ、フツウ?)

食べかすを取り終えるのを待つ。待たなければ怒るからだ。数分の辛抱をする。それで気は済む。でも、ぬめぬめしている。そんな入れ歯をもらい受ける。洗浄液につける。あるいは、ブラッシングをする。それも介護者の仕事の一つ。入れ歯といえども時々、歯磨きしないといけない。世話になった若い訪問歯科医から教わったことだった。

一昨日たまたま見たニュース番組で在宅介護の特集をしていた。認知症になった高齢の妻の世話を、仕事をやめた高齢の夫がみる。そういう老々介護の日常を固定カメラで収めたものだった。認知症の世話とはどんなものか。

ご飯だから、ちゃんとテーブルについてください。でも、妻は夫の指示に従わない。当たり前のことをしない、できない。あるいは分からない。おまけに失禁していたりする。そういうことがごくふつうに起こる。業を煮やした夫は妻に手を上げる。そんな様子も映していた。ひどい夫だと思った。でも、この放送を許した夫の苦衷たるや。察するに余りある。

俺も親父に手を上げたことはある。やられたので、やりかえした。ことのはずみだった。衝突の理由はもう覚えていない。暴力はこの一回だけだ(多分)。でも、家の中には傷が2つある(傷はね)。俺がものを投げつけた、蹴りつけた跡がリビングの床と階段の壁にある。

お袋がその傷跡を修復した。修復と言っても、ガムテープで塞いだだけだ。余計に目立つ。それが目に入るたびに、俺の胸にも、ものならぬものが投げ返される。

そのガムテープも剥がれてきた。親父が死んで、じき半年になる。それだけの時間が過ぎたということだ。やはり、精神的な影響があるのか、お袋の具合もとみに悪くなってきた。従来の足腰に加えて、と言うか、今やほぼ全身、あちこちの不調を訴える。

特にひどいのは腹痛(便秘)と歯の衰えだ。一年ほど前までは、平気で硬い煎餅などもぼりぼり食べていた。それが今では、食パンの耳やウィンナーの皮を残す。ゆでた白菜の芯や春菊の茎もかじれない。切干し大根も駄目。歯医者をすすめても、かたくなに断る。自慢の歯を抜かれて、入れ歯にされるというのが嫌なのだろう。

だから、仕方がないので、とんかつ用の豚ロース肉をヨーグルトとみそに漬けた。

(つづく)